その3 「マバタキ」
「夏が来る」の項でも書いたが、ギターの清野さんがバンドをやめることになって、バンドの存続自体も非常に危うい状況になっていた。
自分がバンドのためにできることは何か。すべきことは何か。それを見つめ直すいいきっかけにもなった。
いい曲を書き続けることしかない、バンドを続けるにはそれしかない、と当時は思い至り、そうしてできたのがこの「マバタキ」という曲。
湘南bitで出会ったクマちゃん(TREMOLO HOUSE)に
「あの曲ってブッチャーズですよね!」
って言われて心底嬉しかった。
そう。「bloodthirsty butchers」は学生時代にどハマりした僕のバイブルの一つ。
「フランジングサン」というフレーズはここからきている。
デモが出来た時はなんだか放心してしまって、ぼーっとしながら飯食ってたら母親に心底心配された。
実家はマンションだったので、歌のデモ録は時間帯に気を遣いつつ、なおかつ迅速に終わらせなければならない。だもんで、更に神経をすり減らせていたのだった。
導入したてのPro toolsにドラムのループを流して、そこにギターを二本重ねて、できるだけ気だるく歌った。
死にたいと思いながら歌った。
テイクを聴いてみると、「絶対死にたくない」って思いが歌声に滲んでいて思わず笑ってしまった。そのちぐはぐな感じがえらく気に入った。
できたデモをメンバーに送ると、もう辞めるはずの清野さんのレスポンスが一番早かったのを良く覚えている。
そこから色んなアレンジを経て、最終的に今の形に落ち着いた。
レコーディングでは同期のサトシ(THE TOKYO SS)にギターを弾いてもらった。
報酬はラーメンでもいいですか、と冗談で言ったらすごく喜んでくれた。
サトシは本当にいいヤツである(バカにしているのではなく、本気で思っている)。
後奏で爆発するようなギターを聴いて、確か一発OKだったと思う。本当に頼んでよかったなぁと。ちなみにサトシは「サラバ」でもギターを弾いている。
エンジニアの井垣さんのアドバイスでギターにディレイをかけたら幻想的な仕上がりになって感動した。
出来上がった音源を聴いて「辞めなくてよかったな」とふらふら思った。
余談だが、2017年のHOTLINE(島村楽器が主催しているコンテスト)神奈川エリアファイナルで、「マバタキ」は楽曲賞を受賞した。全国には駒を進められなかったが、自分の作品がやっと認められたような気がして、またホッとしたのだった。
(次回、その4「サラバ!」に続く)