転がる石、君に痛みが来る

バンド・ランタノイドの歌、ギター、結石担当佐々木によるブログ。

ランタノイド配信全曲解説 その4「サラバ!」

その4「サラバ!

 

 

2ndシングル2曲目。西加奈子さんの直木賞受賞作「サラバ!」を連想してくれた人もいた。小説としてはかなり長いが、この場でオススメしておく。

サラバ!」は明確に「長い曲を作りたい」と思って色々と試行錯誤した。最初期はピロウズの「Fanny Banny」みたいな曲調で、デモを聴いた友達に一発で看破された。

その長さ故に気軽に演奏できないのがネックだが、セトリに組み込まれた時は思いっきり肩に力が入る。聴いた人を全員泣かすくらいの気持ちである。

Cメロで「たぶん きみは もう 忘れちゃうんだろう」「おじいちゃんの 細くなった腕も顔も」ってフレーズがあるが、ここは唯一実体験を元にしている。病院で寝たきりの、腕も顔も細くなったおじいちゃんの姿。

今の所忘れる気配は微塵もないが、でもそれもいつか忘れる日がくるはずなのが少し怖かったりもする。

ので、「忘れたんじゃなくて、未来に近づく分、過去と少しずつサラバするだけなんだよな」って。気持ちに折り合いをつけた。

井伏さんが「人生足別離」を「さよならだけが人生だ」と訳したように。

そのままの感情が歌に詰まっている……と思いたい。

さようなら、バイバイ、またね、などなどお別れの言葉はたくさんあるが、「サラバ!」を選んだのには「別れ」という事象にポジティブなイメージを重ねたかったからというのもある。

多分これから先二度と会うことがないと分かっていても、「サラバ!」ならあっけらかんとしていて、前向きに感じるのだと思う。

 

(次回、その5「オーキードーキー」に続く)

匂いはどこでもいっしょ

仕事の兼ね合いで京都・大阪へ。エスカレーターで立ち止まるのは右側。忘れがちなので時々人の流れを塞いでしまうことがしばしばある。っていうか今回もあった。

新幹線で3時間。たどり着いたらもう変な感じするというか、なんぼ出張行っても不慣れな自分に驚く。異世界感がある。売店とか、土産屋とか、当然だけど普段耳にしているイントネーションとは全く違っていて面白い。こっちもつられてしまって、

Q.袋要りますか?

A.いや、ええですわ

とか飛び出してきて、なんやねんな。感性小学生ちゃうか?

そんなこんなで用事を済ませ、昼飯は何食べよう、あんま時間ないけど名物的なものが食べたい、京都って八ツ橋とか甘味系じゃね、あっ、丸亀製麺みっけ、って感じで丸亀製麺の明太釜玉うどんを貪り食った。美味いけど、せっかく出張に来たのにチェーン店で食事を済ませるのって徳が低い気がしてしまう。貧乏性が発揮されるのはもっと別のところがいい。

京都も大阪も東京に負けじと暑く、歩いている内に体力がどんどこ減っていくのは変わらなかった。コンビニでイオンウォーターを発見し即購入。次のアポが迫る中、猛烈な便意に襲われつつ、ひたすらに歩く。唐突に臭い匂いが鼻につく。決して僕が漏らしたのではなく、排水溝とか、川から発せられているニオイ。横浜でもこんな匂いしたなあとかぼんやり思いつつ、ノスタルジックな感覚を味わう。匂いはどこでも一緒なのである。もっとフレグランスな思い出が欲しいところだけど嫌いじゃない。やっとここも日本なのだと感じてきた。

全てのアポが終わって「夜飯ぐらいは豪勢に!」と思ったらもう20時で店閉まってた。しゃーないので駅弁を探すがほとんど売り切れ。売れ残っていた牛タン弁当では俺の心は満たせない、とゴローちゃんは言うだろうな。言うのかな?

自由席はガラガラで、背もたれマックスに下げて優越感に浸っていたら、3人がけの席に横になっているおっちゃんおばちゃんを発見して、あぁ、「自由」席だもんな、とかくだらないことを考えながら帰路についた。

 

 

 

ランタノイド配信全曲解説 その3「マバタキ」

その3 「マバタキ」 

 

 

「夏が来る」の項でも書いたが、ギターの清野さんがバンドをやめることになって、バンドの存続自体も非常に危うい状況になっていた。

自分がバンドのためにできることは何か。すべきことは何か。それを見つめ直すいいきっかけにもなった。

いい曲を書き続けることしかない、バンドを続けるにはそれしかない、と当時は思い至り、そうしてできたのがこの「マバタキ」という曲。

湘南bitで出会ったクマちゃんTREMOLO HOUSE

「あの曲ってブッチャーズですよね!」

って言われて心底嬉しかった。

そう。bloodthirsty butchersは学生時代にどハマりした僕のバイブルの一つ。

「フランジングサン」というフレーズはここからきている。

デモが出来た時はなんだか放心してしまって、ぼーっとしながら飯食ってたら母親に心底心配された。

実家はマンションだったので、歌のデモ録は時間帯に気を遣いつつ、なおかつ迅速に終わらせなければならない。だもんで、更に神経をすり減らせていたのだった。

導入したてのPro toolsにドラムのループを流して、そこにギターを二本重ねて、できるだけ気だるく歌った。

死にたいと思いながら歌った。

テイクを聴いてみると、「絶対死にたくない」って思いが歌声に滲んでいて思わず笑ってしまった。そのちぐはぐな感じがえらく気に入った。

できたデモをメンバーに送ると、もう辞めるはずの清野さんのレスポンスが一番早かったのを良く覚えている。

そこから色んなアレンジを経て、最終的に今の形に落ち着いた。

レコーディングでは同期のサトシTHE TOKYO SSにギターを弾いてもらった。

報酬はラーメンでもいいですか、と冗談で言ったらすごく喜んでくれた。

サトシは本当にいいヤツである(バカにしているのではなく、本気で思っている)。

後奏で爆発するようなギターを聴いて、確か一発OKだったと思う。本当に頼んでよかったなぁと。ちなみにサトシは「サラバ」でもギターを弾いている。

エンジニアの井垣さんのアドバイスでギターにディレイをかけたら幻想的な仕上がりになって感動した。

出来上がった音源を聴いて「辞めなくてよかったな」とふらふら思った。

 

余談だが、2017年のHOTLINE島村楽器が主催しているコンテスト)神奈川エリアファイナルで、「マバタキ」は楽曲賞を受賞した。全国には駒を進められなかったが、自分の作品がやっと認められたような気がして、またホッとしたのだった。

 

(次回、その4「サラバ!」に続く)

歌を歌うときは

びっくりするぐらい寝て、久々の出勤日を迎えた。激しい雨の音で目が覚める毎日にも慣れてきていたけれど、会社に行かなければいけない、というだけでこんなにも雨が疎ましく思えてしまった。ずっと家にいると、とりのこされている感じが体につきまとってそれはそれでしんどかったのも事実だ。

 

結果として時間は山ほどあったのに新曲のとっかかりすら作れず、アマプラでよくわからない映画を見て、買ってあった漫画を再読していたら夏休みは終わってしまった。まず感情を動かさないと何もできないタイプだから、インプットから始めたはずなのに体に溜まっていかなかった。結局は気圧のせいだ。しょうがないから向こう一週間分の食材を買い込んで満足する。冷しゃぶが美味い。

 

できる時はあっという間なんだよなー、と自分を慰める日々が延々と続くのは結構辛い。

脆さを共有する

盆休み初日。全巻買わなきゃ、と思っていた「好きな子がめがねを忘れた」をf:id:sasakinaoto:20210812064120p:imagehttps://www.amazon.co.jp/dp/4757565313/ref=cm_sw_r_cp_awdb_imm_0SNMBHX83197KJZHT1EP

kindleで一気に買って読んだ。「青春だなぁ」で片付けられない小村くんと三重さん。早く付き合って欲しい、いや、いっそずっと付き合わないでほしいという小村くん的サムシング矛盾を胸に抱いたまま、最新刊の最終ページを閉じた。漫画は読みたい時に読めないと意味がないと思っているし、「やるべきことがいっぱいあるし、実は今読むべきではない」タイミングに読む漫画は最高だと思うタイプの人間なので、僕みたいな人間に電子書籍は、絶対に与えてはいけない。いくらでも、時間を無駄にできる。文明の利器、本当にありがとう。

「好きめが」の話に戻る。別段恋に限った話じゃなくて、お互いを慮って、それが互いに伝わっていて、(現実はそういうことばかりではないのだけれど)その美しさっていいなぁと思う。藤近さんは、小村くんと三重さんを描く内に、恋じゃなくて愛を描きたくなったのではないかと勝手に推察してる。実は最初からそうだったのかもしれない。小村くんを何かと頼ってしまって、自己嫌悪で泣いてしまう三重さんを励まそうと、小村くんが自分の気持ちを打ち明ける(告白じゃないけど告白みたいなもんだろ)4巻は、なんだろう、心がトキメキを通り越してしまった。イチローWBCで決勝タイムリー打ったとき以来の衝撃だった。僕のトキメキは、もうかれこれ10年くらい留守にしていた。つい先ほど、ノックしたら返事が返ってきたのだ。おかえり。

美しいものを目にすると、人は口数が少なくなるのかもしれない。口から想いが飛び出すことで、美しさが劣化するのが怖い、のかもしれない。でも、ブログなら書けるような気がして、筆を取った。この素晴らしい感情を忘れるのと、言語化して失われてしまうであろう美しさを天秤にかけて、僕は恐ろしく弱くて脆いので、忘れる前に文章に残すことを選んだ。そんな脆さもたまにはいい。そんな脆さを共有してくれる人もこの世にはきっといるはずで、小村くんにとって、三重さんにとって、お互いそうだったというだけの話だ。

 

ランタノイド配信全曲解説 その2

その2 「夏が来る」 

 

湿気ムンムン、肌にじっとりと汗が滲む、気だるい夏の曲。

ともかく歌詞は抽象的な装い。

何にインスピレーションされたんだろう。

パッと思いつくのはKeyの「AIR」かもしれない。

だいぶ古いゲームだし、実際にプレイしたことはない。

アニメは全部見た。うるっときたが、号泣はしなかった気がする。

それでもニコ厨は夏が近づくと、嫌というほど「AIR」を思い出す。

示し合わせたように関連動画がランキングにあがるからである。

……クリスマスが近づくと、フジファブリックが聴きたくなったり。

 

人間そういうもんなのだ。

 

大学の先輩に歌詞を見てもらったことがあったが、

その時は「固定」という単語が浮いて聞こえる、とツッコまれた。

そう言われると確かにそんな気もしたのでその場は深く頷いたが、今となっては別にどうでもよい話だ。

個人的な好きポインツを挙げるとするならば、「夕立」と「雷」を合図に「また会いたい」って思えるの、アツいなあ、と思う。

なんでアツいのだろう。

AIR然り、フジファブリック然り、

夕立が降ると、「あぁ夏だ」と思えて、その感覚がたまらなく好きだから……、ということ、かも?

 

ああ、でも違う。思い出した。

 

これは、僕が大学在学時に書いた詩「オト(ギバナシ)」にも関わってくると思うからちょっと詳細を書くこととする。

日本大学芸術学部文芸学科に入って現代詩を学んでいた当時、

授業の一環でDTPインデザインとかフォトショとかイラレとか)を駆使してゼミ誌を作ることに。

その中で2ページくらいのスペースをメンバーから貰って、自作の詩を載せることになった。

完成したゼミ誌は文芸学科のロビーに置かれて、誰でも閲覧できるようになっているのだけれど、

レイアウトとかデザインとか、取り仕切ってくれた子(名前は忘れてしまった。痛恨)のハイセンスもあって、

割と評判は良かったそうな。

そしたら、なんかそれから半年ぐらい?経った頃かな。

人づてに、「この詩を劇の一部分に使用したい」と演劇学科の子が言ってくれていることを知ったのだった。

普通の作家大先生ならば、

「ああ、構わないよ。好きに使ってくれ」

ぐらい余裕ぶって言うべきなのかもしれないが、

 

僕にはそういった経験が一切なかった。

 

実はランタノイドもあまりカバーされたことがない!(当然だ)

 

ので「えーっ!!!!えーっ!!!」

って言いながら使用許可を出した。

ドキドキしながら公演を見に行ったが、それはもう全身の毛が逆立つぐらいよい作品だった。

自分が生み出した言葉、ひねり出した想い。

それが「劇」というフィルターを通して不特定多数の人々に散らばっていく。

とてつもなく気持ちのいい瞬間だった。

本当だったら、終演後にすぐにでもお礼を言うべきなんだけれどそんな余裕もなく。

在学当時よくつるんでいた「タイさん」と近くのラーメン屋かなんかに入った。

んで、飲めないくせにビールを浴びるほど飲んで、フラフラしながら電車に乗って帰路についた。

「タイさん」は茹でダコみたいになっている僕を見てずっと優しい笑みを浮かべていた。

心拍数がドカドカあがり、形容しがたい高揚感に包まれるあの感覚。

それを歌に落とし込みたかったのだろう。

「会いたい」のは人じゃなくて、

もう一度、あの日起こったちっぽけで、自己満足で、自分の中だけの奇跡みたいな出来事に、

「夏」を通して、出会いたかったのだと思う。

ちなみにこのシングルをリリース後、ギターの清野勝寛が脱退し、ランタノイドは3人編成となる。

当時は色々あったけれど、今でも仲は良いと思う。

メンバーが共同生活しているランタノイドハウスに清野さんもいる。

 

(次回、その3「マバタキ」に続く)

ランタノイド配信全曲解説

  その1「とべとべろまんず」

 

「酒を一滴も飲めないヤツが酒を飲もうと歌っている」

と中学の同期からは随分いじられたこの曲。

ランタノイドもなんだかんだ結成から10年経っていて、(メンバーが変わっていたりもするけれど)

それこそこの曲ができた当時はバンドとしての活動が充実していなかった時期でもあった。

高校卒業して、「さあこれからバンドやるぞ!」

ってタイミングで、ギターとベースが抜けたり。だからもっぱら弾き語りで披露することの方が多かった。

ドラムの啓太郎と二人、カホンとアコギで何度もライブ出演したのもいい思い出である。

歌詞を見てもらえればわかる通り、この頃は時代と逆行したいとばかりずっと思っていて、

聴いていた曲も随分昔のものばかりだった。

聖子ちゃん、マッチ、ピンクレディー、およげたいやきくん……。そしてビートルズ、と。

「生まれる時代間違えたわ!」ってひたすら思っていたのだろう。

当時流行っていた音楽に魅力がなかった、惹かれなかったということなのかもしれない。

その良し悪しは別として。

今はヒットチャートがアイドルで埋もれることもなくなり、

好みのバンドもいっぱいでてきて、音楽の聴き方さえも変わってきた。

なけなしの1000円でアルバム5枚借りて、ソッコーでalneo(ビクターのポータブルオーディオプレイヤー)にぶちこんで、曲名が全部「???????????」でイライラしたり、そんなことがひたすら懐かしい。

その懐かしさを歌いたいのだ、と謎の使命感に駆られていたのかも。

好み1000%でつくられた従姉妹のMDとか。

中学の卒祭的なイベントで一緒にお笑いをやることになった相方から

ミスチル入門編!!」

って汚ねえ字で書かれた自作のCDをもらったりとか。

そういう誰にでもある懐かしさを歌いたいと思った時、

「とべとべろまんず」

というよくわからんポンコツみ溢れる単語が生まれたのであった。

発表した当時も、今もそうだが、ライブ後はおじさまおばさまに話しかけてもらえることが多い。

琴線に触れるのかもしれない。

稀に、めっちゃ若い子が「聖子ちゃん最高ですよね」とか言ってくれることもあるが、それも嬉しい。

自分も君のような時代があったのだ。そんでもってそれは間違ってはいないのだ、と思いながら話をする。

一回だけ、「2000年代って言ってたけど!君らいったいいくつなん!?」みたいに絡まれたこともある。

歌詞の流れ的にランタノイドが2000年代生まれのバンドだと勘違いされたのだ。

これはちょっと反省もした。言及されたのたぶん2015年とかの話だから、まあ、そりゃ不思議に思うよな。タバコ吸ってたし。

そんな勘違いもされつつ、この曲のレコーディングをきっかけに、閉塞気味だったバンドの活動も徐々に開けてきたようなイメージがある。

2015年12月に発売。元ギター清野、ベース小林と4人体制になってから初の音源だった。

鶴見トップス(現在はGIGS)の下にある小さなレコーディングブースで録音した。

アコギは自分のパートだったが今よりもずっと下手くそでリズムも取れていなかったので、元ギターの清野さんに全部弾いてもらった。

今もランタノイドの曲をミックスしてくれているエンジニア井垣さんの提案で、後送部分は各人がはちゃめちゃな単語を叫び、それを重ねてもらった。

色んな偶然も手伝って、ランタノイドの中でも一際印象深い一曲となったのであった。

 

(次回、その2「夏が来る」に続く)